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先日89歳で亡くなられた、脚本家の山田太一さんの編集による、「生きるかなしみ」をテーマに書かれた、様々な作家さんのエッセイが掲載されている本です。
その前書きとして書かれた山田さんの文章が、とても印象的でした。
”心臓とか肝臓を移植出来たり、ロケットが宇宙で新しいことをしたり、独裁者が倒されたりすると、人類は輝かしい力に溢れているようなことを、新聞やテレビはいうけれど、無論それはジャーナリズムの誇張で、人間は無力である。”
容姿も背丈も性別も選べない。
才能も知力も体力も自由にはならない。
事件や事故や病気を何とかくぐり抜けても、永遠に生きられるわけでもない。
仮に生きたとしても幸せかどうかは分からない。
自分で何かを成し遂げたようでも、多くは状況や構造の産物である。
誹謗中傷に弱く、物欲性欲に振り回され、見苦しく自己顕示に走る。
目先の栄誉を欲しがり、孤独に弱く、嫉妬深い。
人間とは、なんて悲しい存在なんだろうと思ってしまいます。
”「生きるかなしみ」とは、特別なことをいうのではない。人が生きていること、それだけでどんな生にもかなしみがつきまとう。「悲しみ」「哀しみ」、時によって色合いの差はあるけれど、生きるということはかなしい。”
暗いことにはなるべく目を向けたくない。
いずれ悲しいことや嫌なことにも出会うだろうが、それまでは楽天的でいたい。
仮に悲しい目にあったとしても、そんなことは早く忘れたい。
嘆いていても何もいいことはない、苦しい日々の中からなんとか明るい芽を見つけ出し、元気に生きていく・・・。
そんな風に生きていけたら、どんなに楽でしょうか。
でも、このような楽天性は一種の神経症のようなもので、人間の暗部から逃げまわっているだけだと、山田さんは書かれています。
”本来の意味での楽天性とは、人間の暗部にも目が行き届き、その上で尚、肯定的に人生を生きることを言うのだろう。”
今の世の中、楽天的なポジティブシンキングだけではどうにもならないことがたくさんあります。
どうしても頑張れないとき、自分はどうあるべきか迷ったとき、「生きるかなしさ」に目を向け、人間のはかなさ、無力さを知り、それでも生きることの意味を信じながら、何とか死ぬまで頑張ってみようと思わせてくれる本でした。